【ダークツーリズム】現代人が「闇」を求めて負の遺産を巡る理由

ダークツーリズム


【ダークツーリズム(英: Dark tourism)】

災害被災跡地、戦争跡地など、人類の死や悲しみを対象にした観光のこと。ブラックツーリズム(英: Black tourism)または悲しみのツーリズム(英: Grief tourism)とも呼ばれている。

ダークツーリズムとは比較的新しい観光の概念で、広義には死や悲劇、災害などにまつわる観光のことを言います。

本記事では、「闇」がなぜ人間にとって必要なのかを紐解き、「観光」という行為にどう落とし込まれるかについてなるべく分かりやすく説明します!

光と影、そして観光

「闇があるから光がある。そして闇から出てきた人こそ、一番本当に光の有難さが分かるんだ。」

かつて共産党の作家として名を馳せた小林多喜二は、
愛しの田口タキへの恋文にそう綴りました。

小林多喜二のラブレター

田口タキは、親に売られ、小料理店の私娼として生計を立てる貧しい女性です。
地元の大学を卒業し、銀行に就職したエリート多喜二からの求愛は荷が重すぎます。

しかし、何通にも及ぶ恋文を通して、二人はやがて生活を共にするように。

「つらい経験をしたからこそ、これからしあわせの道を探していこう」

多喜二の手紙はそう語ります。しかし、幸せな日々は長くは続きません。

思想犯として逮捕された小林多喜二は、特高警察の拷問を受け、29 歳という若さでこの世を去りました。

正と負の側面を持つ「空間」

物事には光と影の側面があり、辛い経験をしたことのない人間はいません。

失恋は悲しいけど、その分前より素敵な相手に出会えるチャンスだったり、
就職が上手くいかなくても、その分自分の将来について深く考える癖がついたり、
まぁ物事両面あるよねってことです。

逆に、世間一般で言う成功を手に入れたとしても、友人をなくてしまうなど、
「光に見えて影」の部分もたくさんあるわけです。

「空間(地域・遺産)」も同じです。

地域や場所にも栄光を讃えるべき側面もあれば、その裏には厳しい現実と悲しみの記憶が必ず伴います。

平和の象徴とされる広島の原爆平和記念館も、血みどろな歴史があったり、
近代化を支えたとされる日本の鉱山も、強制労働による犠牲のもとに成り立っています。

「観光」は現代人特有の現象?

「観光」と聞いた時、何を思い浮かべますか?

ハワイで一夏の思い出を求めて、ココナッツジュースをすすったり…

エッフェル塔を横目に恋人の町パリで素敵なディナーをしたり…

タイのトゥクトゥクに揺られて、下町を冒険したり…

従来の観光といえば、楽しさとか素敵な体験だとか、
「観光」という文字通り「光」の側面を強調するものが多いといえますね。

でも、観光を娯楽という言葉で片付けてしまうには、じつ~に勿体ない。

実は観光という行為は、現代人を語る上で非常に重要な概念を隠し持っているのです!

現代人にとっては余興時間が何よりも大事

大規模な国外旅行としての「グランドツアー」発祥の地イギリス。

今やイギリスでは、「自由時間」の40%は旅行に使われていると言われています。

仕事と関係のない理由で、どこかへ出かけること。
何かにまなざしを傾け、一定期間滞在すること。

実はそのように、「労働(仕事)」と切り離された時空間で、
何かを見るために季節を問わず出かけるという現象は、
19世紀以降に発生したものなのです!

元々は、巡礼という宗教上の習慣としてしか、
労働と別の理由で国外に訪れることはなかったんですね。

時は流れて21世紀。
旅行や休暇を必須だと感じること自体が、私たちが現代生活を営む上での決定的な指標にもなっています。

「休みが欲しい~」、「旅行したみ~」。

こんなありふれたフレーズが、実は現代的な言説を表しているものであり、同時に人々の肉体的・精神的健康が、「休養する」ことができさえすれば回復するという考えが根本にあることを語っていますね。

日本でも、総理府広報室実施の「今後の生活の力点をどこに置くか」というアンケートに対し、1983 年には食生活や住生活を抜いて「レジャー・余興生活」が第 1 位となっています。

つまり、第二次世界大戦でズタボロになった日本が高度経済成長を遂げた後は、
食べ物や住環境よりもいわゆる「娯楽」が重要になったということです!

観光とは私たちが現代人として生きる上で欠かせない活動であるといえますね。

ダークツーリズムとは?

このように、観光とはレジャーの一環であるとはいえ、私たちの住む 21 世紀を語るにおいては避けて通れないテーマの一つになっています。

でも、ぶっちゃけ、やっぱり「娯楽」として認識しますよね?
正直、旅行、楽しみたいですよね?

そりゃ、どちらかといえば、せっかくの休みなんだからバカンスしてウハウハしたいわけです。

しかし。
観光を提供する側が「楽しんでね~(⌒∇⌒)」というスタンスでいすぎると、
地域や歴史の光の側面が一方的に強調されることが多い。

行き過ぎたPRは、一方的な歴史の解釈につながるので、少し危ない!

ちょっと偏りのある日本の歴史や観光

とりわけ、日本ではその傾向が強いんですね。

例として、第二次世界大戦。
日本は欧米と闘いながらも、アジア戦線においては中国大陸への侵略戦争をしました。

アジアからすれば「加害者」ですが、世界的に見れば原爆を落とされているので「被害者」です。広島の原爆ドームも、戦争の被害者として平和を讃えています。

でも、戦争の加害者としての側面を反省する記念館って、日本にないんじゃ…

また、国際原子力事象評価尺度(INES)レベル 7という最悪の事態を言い渡された福島第一原子力発電所の事故。この実態は事件を速やかに収束できなかった人災とも言えますね。

でも、国民は自国の対応を反省するより、「がんばろう日本」や「行くぜ、東北」という共通の記号を掲げていきます。そして、「なぜ事故が起きたか」ではなく、「とりあえず事故が起きちゃったけど、ポジティブに行こう!(上を向いてあるこう~♪)」というやや危ない立ち直り方をしているわけです。

命を落とされた方々には心が痛みますが、なんだか都合が良いような…

欧米におけるダークツーリズムの誕生

このような現状に日本がある中、近年欧米では新しいタイプの観光形態、「ダークツーリズム」が急激に広がっています。

レジャーを目的とした従来型の観光の、対極に位置しているといえる新しい観光概念。

Glasgow Caledonian大学のジョン・レノン教授とマルコム・フォーリー教授の“Dark Tourism: The Attraction of Death and Disaster”を通して、世に知らしめられました。

戦争や災害をはじめとした、人類の死や悲しみの記憶をめぐる旅として定義されるダークツーリズム。

上述した原爆ドームや福島第一原子力発電所などを主たる観光対象としていますが、ちょっと、不謹慎に見えますよね。

というか、どう見ても歴史の闇をほじくり回して楽しむ活動にも見えてしまいます。

でも、冒頭で記した小林多喜二の言葉を再び借りると、歴史的出来事や地域には必ず光と闇の二つがあり、その闇があるからこそ光がある。

従来の観光では無視されがちな地域の負の側面も、丁寧かつ真摯に向き合ってみれば、その地域の魅力を向上させるものとなり、訪れる人に学びを与えることができます。

地域の悲しみの記憶は隠すべき対象ではなく、むしろ生き方の覚醒や社会を見直す気づきを与える価値を持っています。

ダークツーリズムは、地域に新たな魅力を見出すための「チャンス」となるのです。

ダークツーリズムの具体例

ここまで来たら、さすがに具体例についての分析が欲しいですよね。

当ブログ運営者の猫島は廃墟が好きなのですが、下記の記事はいわゆる「ダークサイト」としてそれなりに有名な廃墟についての現地レポになります。ぜひご覧あれ!

次回は、具体的に観光がどこで生まれて、どのようにして現代人にとって必要不可欠な行為となっていったのかを紐解きます。
お楽しみに!

comments

タイトルとURLをコピーしました